Eminem - Stan ft. Dido

2024年02月14日

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今回の英単語:Autograph (3:33)

意味:著名人や芸名のサイン

Signは「看板」や「記号」の意味になってしまいます。

Signatureはいわゆるサインですが、こちらは本名での「署名」という意味です。


【一人のファンの狂気を描いた名サスペンス】

1999年にいきなり爆発的に売れた印象のエミネム。

デビュー曲の「My Name Is」や「Without Me」の印象からイロモノ的に思っていました。

しかしこの曲でイメージが180度変わりました。


MVを含めて鳥肌ものです。

曲自体が6分45秒ですが、そのストーリーに引き込まれる、長さを感じない曲です。

ロングバージョンMVは8分超えの大作ですが見入ってしまいます。


冒頭から流れる女性の優しい歌声はUKのシンガー、Didoです。

この曲で注目を浴びてブレイクしました。

ダークな雰囲気に憂いある感じの歌がもの悲しさを増幅させています。

このMVにもガールフレンド役(妊娠しているのに妻ではない?)として出演しています。


トラックはシンプルなベースとドラムと微かなギターの音のみでラップの部分をしっかり聴かせます。

場面ごとに色々な効果音が組み込まれ、物語性と陰湿さを醸し出しています。


曲名の「Stan」はエミネムの熱狂的ファンの名前(Stanley君)です。

田舎町に住むスタン。

彼は熱狂的なエミネムのファン。

彼宛にファンレターを書くも全く返事が来ない事を不満に思っていた。

月日が流れるうちに不満は怒りへと変わり、我慢の限界が近づいていた。

そんなある夜、彼のガールフレンドが取った行動により遂に彼の理性が吹き飛んでしまう…


どうですか?

ちょっと映画の紹介っぽく書いてみましたw


この曲はMVを見ながら聴くのがオススメです。

なのでMVと歌詞を同時進行で書きますね。


冒頭から雨の夜、お腹に子どものいる彼女(Dido)が目を覚ましてバスルームに行くと…

既にこの雰囲気、怖いですね〜


まずはDidoが歌っている歌詞、この曲で同じ部分がなん度も繰り返されてとても印象的です。

「冷めた紅茶」、「雨雲」、「灰色」とどんよりした雰囲気を醸し出します。

そして「あなたの写真を見て『そんなに悪くない…悪くない…』」と呟くような歌声…

一緒になった事を後悔したくないと自分に言い聞かせているように感じます。


そして一番。

ペンを走らせる音と共に始まるリリック。

主人公の「Stan」がエミネム宛にファンレターを書いています。

以前送ったファンレターに電話番号や住所を書いたのに返事が来ない事を不満に思っているようです。

スターが返事をよこさない事を不服に思っている時点でアウトな人ですね…

娘の名前をエミネムの曲に因んで考えたり、マニアックな情報を話題にしたりと凄い熱狂ぶりです。

部屋に写真やポスターを貼りまくっていると言っていてますが、逆にドン引きされそうですね。

しかし、まだ一番では冷静に語っています。

手紙が届かないのは郵便局のミスかもね、なんて言っています。

「俺が一番のファン、スタンだ。よろしくな。」という感じで彼にアピールしています。

「エニウェイ」からの韻の踏み方が素人のファンなのにカッコいいです。


そして再びDidoの歌声になってからのMVでは色々ストーリーが見えます。

彼と彼女は当たり前ですが、うまくいっていないようです。

そして偶然にも彼の手紙は本当に郵便局のミスで送付できていないようです。


そして狂気が加速し始める二番。

以前エミネムの握手会で実際に会った時に

「手紙くれたら返事を返すぜ。」

と言われた事を信じてファンレターを書いているのに返事が来ない事に怒りが湧いてきています。

彼はエミネムのコンサートに6歳の弟を連れて行ったことも書いています。

弟もエミネムの事が好きと書いていますが、弟は全然興味なさそうですね。

出待ちで寒空の中サインしてくれるのを待っていたのに「ノー」と言われた事を根に持っているようです。

「弟のためにサインが欲しかったのに酷い!」と弟を使って訴えています。

MVを見るとちょっとしたタイミングが大きな誤解になってしまったようです。

しかし、グッと怒りを飲み込むことはまだできているようです。

胸にエミネムの名前の刺青をした事、妻にずっとエミネムの話をしている事など…

どれほどエミネム愛が強いかアピールしています。

彼が刺青をしたというところで流れる「♪バアァッド…」の声が印象的です。

そして母に暴力を振るう父がいた事、自傷行為もした事などもファンレターに書いています。

チラッと語った部分ですが、彼の人格の大きなバックグラウンドのようです。

ていうか、ファンレターにそんな事書くのもヤバいんですけど…


そして締めくくりは「俺は一番のファン、スタン。」から更に

「追伸、俺たちも一緒になるべきだ」

…「も」ってなんでしょう!???

こんなのファンから貰ったら流石のエミネムでも怖いんじゃないでしょうか。


そしていよいよ彼の中で何かが切れる三番。

MVではDidoの歌の間についに妻に秘密がバレてしまいます。

そこから彼の狂気が爆発します。


これまで「Dear Slim」で始まっていた彼のメッセージ。

三番では「Dear Mr.」になっています。

これは

「俺(エミネム)はファンに手紙や電話なんてしないよ。」

と返事をよこさないエミネムを皮肉っているのでしょうか。


スタンは彼女を車のトランクに入れ、酒を飲んで雨の夜に車を飛ばしています。

片手ハンドルでカセットにエミネムへの最後のメッセージを吹き込みながら…


ここでフィル・コリンズの「In The Air Tonight」という歌が引き合いに出されているのを知りました。

彼はこの歌を「溺れていた人を見捨てた奴をフィルはライブで見かけた。」とおかしな解釈をしています。

「溺れる人=自分」、「エミネム=目撃者」ということでしょう?

エミネムに助けを求めていたのに見ているだけだった、つまり見捨てられたと思い込んだのでしょうか。


手紙も電話もよこさないエミネム、そして秘密を知った妻によって彼の理性が失われています。

酒のせいもあり、怒りと憎しみが彼を飲み込みます。

エミネムの写真やポスターを引き剥がし、車中ではエミネムを呪うような言葉を叫びます。

彼女の喉を切り裂かなかった自分は彼女を窒息させて苦しめない分、エミネムよりもマシだとも…

そんな呪いの言葉、そして彼女の叫び声が入ったカセットをエミネムに送ろうとしているんです。

完全にプッツンきてますね(死語w)


しかし彼は大事な事を忘れていました。

「吹き込んだカセットをどうやってエミネムの元へ届ければいいんだ!?」

急に冷静さを取り戻しましたね。

しかし次の瞬間…


そして四番。

やっと彼からの手紙を読んだエミネムが彼の異常さに気づき返事を綴ります。

ライブでスタンを見つけなかった事を謝り、キャップにサインして送ろうとしています。

スタンに冷静になるよう、優しくアプローチしてしっかり読んでもらおうという誠意が伝わります。

彼女とお腹の子どもを大事にするよう、そしてカウンセリングを受けるよう丁寧に手紙を書いています。

ファンでいてくれることは嬉しいが、距離は保っていて欲しいという感じですね。

そしてリラックスして怒りを鎮め、おかしな事は起こさないようにと願っています。


その流れで前に見たニュースを引き合いに出します。

酒酔い運転で橋から転落した車のトランクに運転手のガールフレンドがいて、彼女は妊娠していたと…

そしてそのニュースを見返した瞬間エミネムは気付きます。


事故を起こしたのは彼だと…


そして彼の座っている窓に…


狂気じみてくるスタンと冷静に諭すエミネムの声色の使い分けが秀逸です。


最後に、サンプリングされたDidoの「Thank You」。

冒頭の部分は暗めの印象ですが、だんだん優しい光に包まれるような雰囲気になるほっこりソングです。

「Stan」を聴いた後に聴くと余計に救われた感じがします。


因みに後にDidoは子供を授かって息子に「Stanley」と名付けているそうです。

ただ、この曲とは無関係で、昔から付けようと思っていた名前だと言っていたそうです。


ミックスリスト:My Favorite トゲトゲ Songs